【イベントレポート】ニューヨークで見たAIエージェントの現在地



Text by Tomoyuki Kage

2025年11月14日、ニューヨークで開催されたDeepLearning.AI主催の「AI Dev 25 x NYC The AI Developer Conference」に参加してきました。

AIに関する研究発表や新モデルの発表を目的としたものではなく、企業や開発者が実際にAIをどう使い、どこに課題があるかを共有することが中心のカンファレンスです。

日本から見ると、AIの話題はどうしても有名AIベンダーの新機能や各社の比較、もしくは理想論に寄りがちですが、このカンファレンスでは「すでに使っている前提」での話が多く、AIが何ができるかよりも、どこまで任せられるか、どこで人が止めるか、いわゆる規制についての話が多く展開されました。

それにより、AIエージェントの現在地が見えてきましたので、カンファレンスの詳細レポートをお送りいたします。


著名な登壇者の発表内容は控えめ


アンドリュー・ン氏をはじめ、名前の知られた登壇者もいましたが、セッションの内容は意外なほど落ち着いたものでした。新しい理論や派手な成果を語るというより、現場で起きている問題をいかに理解するか、いわばForward Deployed Engineer(FDE)の業務内容に関わる点が多かったと言えます。クーガーでも非常に重要視しているエンジニアリング部分でもあり、日本で実際に行っている実務にも関わるリアリティのある内容でした。

印象に残ったのは、AIの性能が上がっても運用が楽になるわけではない、という前提が強調されていたことでした。モデルが賢くなっても、評価、検証、責任分界といった作業は残る。その負荷をどう設計するかが、今の課題であるという話でした。

AIを「導入するかどうか」ではなく、「どう管理するか」という段階に入っていることが、暗黙の共通認識になっているようでした。


写真:アンドリュー・ン氏(右)とクーガーCEO石井(左)


パネルディスカッションで共有されていた現実感

複数の企業やプロダクト開発者が参加したパネルでは、エージェントという言葉は頻繁に使われていましたが、完全自律を前提にした話はほとんどありませんでした。

むしろ、エージェントは単機能に近い形で切り分けるべきだ、という話が多く出ていました。一つのエージェントに多くを任せると、挙動の把握が難しくなる。そのため、役割を限定し、結果を人や別のシステムが確認する構成が現実的だという意見でした。

AIを人の代替として語る場面は少なく、人の作業をどう分解し、どこを支援するかという視点が主流でした。


MCPやAgent設計の話が具体的だった背景


MCP(Model Context Protocol)やAgentに関する話題も多く扱われていましたが、抽象的な理論よりも、設計上の注意点が中心でした。



特に頻出していた内容としては、エージェントに与える権限を増やしすぎないことの重要性です。使えるツールが多すぎると、エージェントが適切な選択をできなくなるケースが多い、という経験談が複数共有されていました。

エージェント設計は知能の問題というより、境界と制約の設計の問題だ、という認識が広がっているように感じられました。


企業事例に見られた実際の使い方


あるグローバル金融機関の事例では、KYC(顧客確認)業務へのAI活用が紹介されていました。人が数日かけて行っていた調査が、AIエージェントを使うことで数十分に短縮された、という話です。

ただし、最終判断は必ず人が行う構成になっていました。AIの出力はあくまで整理と下準備であり、そのまま確定させることはしていない、という説明でした。

効率化は進んでいるものの、責任の所在を曖昧にしない設計が優先されている点が印象的でした。


各企業の発表について

アンドリュー・ン氏が絡む発表について



全体的にいわゆる「AIの未来」や「AGI」といった未来の話をする場ではありませんでした。

テーマは実務寄りで、AIエージェントやAIコーディングがすでに現場に入り始めた後、何が起きているのかという話が中心でした。

アンドリュー・ン氏も話していましたが、いわゆるキーノート的な立場ではなく、他の登壇者と並んで一参加者として発言していました。話の軸は一貫していて、「AIで何ができるか」よりも、「AIを使い始めた結果、チームや開発のあり方がどう変わってきているか」という点に置かれていました。

その中でも、AIコーディングやエージェントによってコードを書く速度自体は確実に上がっている、という点についてはほぼ全員が同意していたことです。一方で、その結果として「レビューが追いつかない」「品質管理がボトルネックになる」「人間が考えるべきポイントが別の場所に移動している」という話が繰り返し出ていました。



特に強調されていたのは、「エンジニアが不要になる」という話ではなく、役割の重心が変わっているという点でした。

コードを書く作業そのものよりも、「何を作るか」「それはなぜ必要なのか」「その仕様で本当にいいのか」といった問いに向き合う時間が増えている、という話でした。

また、AIエージェントについても、完全自律型の話よりは、「部分的に任せる」「人間の判断を前提にした設計」が現実的だというトーンでした。

実際に運用してみると、エージェントは間違えるし、忘れるし、前提を誤解する。その前提でどう設計するかが重要だ、という話でした。

全体を通して、このパネルは「未来を語る場」というより、「すでに起きている変化を淡々と共有する場」だったように感じました。AIはすでに現場に入り込んでいて、その結果として人間側の仕事の輪郭が少しずつ変わり始めている、という話でした。


写真:VercelのCTO Malte Ubl氏(左)とクーガーCEO石井(右)


Boxが示していた「エンタープライズAIエージェントの現実」


日本のエンタープライズのユーザーが多いことでも知られるBox。彼らのセッションは、いわゆる生成AIのデモや派手な未来像を見せるものではありませんでした。

内容は非常に実務的で、「企業がAIエージェントを使うとき、実際には何が問題になるのか」という話が中心でした。

前提として語られていたのは、エンタープライズではデータが一箇所にないという現実でした。

Box、Salesforce、Workday、Google Driveなど、データは複数のシステムに分散していて、ユーザーは「どこにあるか」ではなく「答えが欲しい」という状態にある、という話でした。

Boxが提供しているのは、Box内のデータをAIで使えるようにする仕組みですが、それだけでは不十分で、他のシステムともつながる必要がある。そのためにA2A(Agent to Agent)やMCPのような仕組みを使い、複数のエージェントを役割ごとに分けて組み合わせる、というアプローチが紹介されていました。

強調されていたのは、「万能なエージェントを作らない」という考え方でした。

請求書を読むエージェント、情報を抽出するエージェント、レポートを作るエージェント、といった具合に、一つのエージェントは一つの役割だけを持つ設計が現実的だ、という話でした。

また、MCPについても、「APIをそのまま全部公開するのは良くない」という話がありました。

エージェントが必要とする操作だけをツールとして切り出し、使える範囲を明確に制限する。そのほうが、エージェントの挙動が安定し、セキュリティやガバナンスの面でも管理しやすい、という話でした。

全体として、Boxのセッションは「AIエージェントの可能性を求めるか」ではなく、「既存の企業システムの中にどう現実的に組み込むか」を淡々と説明する内容でした。

日本の企業環境にも比較的そのまま当てはめやすい話が多かった印象です。


MLflowが語っていた「AIエージェントは作った後に壊れる」


MLflowのセッションは、今回のカンファレンスの中でも特に現実的でしたが、現場の課題が強く伝わってくる内容でした。

テーマは一貫していて、「AIエージェントは作った後、必ず問題を起こす」という前提から話が始まっていました。

AIエージェントを本番環境に出すと、品質が下がる、コストが跳ねる、レスポンスが遅くなる、といった問題が必ず起きる。そのときに、何が起きているのかを把握できないと、改善のしようがないという話でした。

MLflowが提供しているのは、エージェントのトレーシングや評価の仕組みで、どのプロンプトで、どのツールが呼ばれ、どこで失敗したのかを後から追えるようにするものです。

特に着目されていたのは、「ログを見るだけでは足りない」という点でした。

本番ではログが膨大になり、人間がすべてを確認することはできない。そこで、エージェント自身にログを分析させ、問題の傾向や原因を見つけさせるというアプローチが紹介されていました。

また、修正を入れた後に「本当に良くなったのか」を確認するために、オフライン評価を回帰テストのように使う、という話も印象的でした。

AIエージェントもソフトウェアと同じで、変更すれば別の場所が壊れる可能性がある。そのため、評価用データセットを用意し、変更前後を比較する必要がある、という話でした。

このセッション全体から感じたのは、AIエージェントが「魔法の存在」ではなく、壊れやすく、手入れが必要なシステムとして扱われ始めているということでした。

派手さはありませんが、実際に運用している人たちの温度感がそのまま伝わってくる内容でした。


Gensparkの発表


日本のユーザーもかなり多いと感じるGensparkも社長自らが発表していました。さすがは中国という驚異的な成長スピードで流行りのAgent機能も搭載して競争が激化してきているのをひしひしと感じました。



全体を通してのキーワードは”評価と監視”


カンファレンスでは、評価や可視化ツールの話題も多く出ていました。モデルの精度比較よりも、エージェントがどの判断で失敗しているかを把握するための仕組みが重視されていました。

ログの量が増え、人がすべてを確認することは現実的ではありません。そのため、エージェントの挙動を分析するために、別のエージェントを使う、という構成も特別なものではなくなっていました。

AIを使うためにAIで監視する、という発想が前提になっている点は、このカンファレンス全体を通じて感じられた特徴でした。


今回のカンファレンスを通じて見えたAIエージェントの現在地


このカンファレンス全体から見えたのは、AIは魔法のような存在ではなく、問題が起きる前提の道具として扱われ始めている、という現実でした。性能向上よりも、制御と管理が課題になっている。その空気感が一貫していました。

AIをどう使うかではなく、どう付き合い続けるか。その問いに向き合う段階に、少なくともニューヨークの現場は入っているようでした。



We Are Hiring!

クーガーは自律的で大胆なチャレンジを支援し、それぞれの個性を生かした技術と創造性の追求ができる場を目指しています。

ぜひ採用ページからエントリーください。カジュアル面談も実施しています!


最新情報をメールで取得

登録

© Couger Inc. All rights reserved.